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広島地方裁判所 平成8年(ワ)1265号 判決

住所〈省略〉

原告

X1

住所〈省略〉

原告

X2

右両名訴訟代理人弁護士

二國則昭

中田憲悟

住所〈省略〉

被告

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

柳瀬治夫

高坂敬三

右訴訟復代理人弁護士

間石成人

田辺陽一

主文

一  被告は、原告X2に対し、金六九二万四二五二円及びこれに対する平成八年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告X2のその余の請求を棄却する。

三  原告X1の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告X2と被告の間に生じたものはこれを一〇分し、その三を被告の負担、その余を原告X2の負担とし、原告X1と被告の間に生じたものは原告X1の負担とする。

五  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1に対し、金一三一二万五五〇〇円及びこれに対する平成八年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、金二三一八万六八四三円及びこれに対する平成八年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(なお、一、二とも付帯請求の起算日は訴状送達の日の翌日である。)

第二事案の概要

本件は、原告らが被告の従業員から勧誘を受けワラントを購入したところ、右購入ワラントは権利行使期間の経過により権利消滅したため、ワラント購入代金相当額の損失が発生したところ、右損失は被告の従業員による違法な勧誘行為等によるものであるとして、被告に対し使用者責任に基づく損害賠償を求める事案である。

一  本件の基礎となるべき事実(争いがない)

1  原告X1(以下「原告X1」という。)

原告X1は、被告の従業員であるB(以下「B」という。)の勧誘により、平成二年四月二五日、第一回日本航空外貨建(なお、本訴において取引されたワラントはいずれも外貨建ワラントであるから、以下「外貨建」の表示は省略する。)ワラント(数量五〇・単価三〇・〇〇ポイント・代金一一九三万二五〇〇円)(以下「本件日本航空ワラント」という。)を購入し、同年五月一日、右代金を支払った。しかしながら、本件日本航空ワラントは、権利行使期間である平成五年四月六日が経過し権利消滅した。

2  原告X2(以下「原告X2」という。)

原告X2は、被告の従業員であるC(以下「C」という。)の勧誘により、平成六年一月一一日、第四回大林組ワラント(数量一〇〇・単価二・〇〇ポイント・代金一一三万四五〇〇円)、同月三一日、第一回日本無線ワラント(数量二〇〇・単価一〇・二五ポイント・代金一一二四万四二五〇円)、同年二月四日、第三回熊谷組ワラント(数量三五〇・単価三・二五ポイント・代金六二二万四九六八円)、同年五月二四日、第一回日本無線ワラント(数量一〇〇・単価四・七五ポイント・代金二四七万七一二五円)をそれぞれ購入し、代金を支払った。しかしながら、第四回大林組ワラントは平成七年八月一日、第一回日本無線ワラントは同年二月二一日、第三回熊谷組ワラントは同年八月八日の各権利行使期間が経過し権利消滅した。

二  原告らの主張

1  ワラント取引勧誘の際の証券会社従業員の注意義務

(一) 適合性の原則

証券会社が顧客を勧誘して投資を行わせるに際しては、顧客の属性、資産状態、資金の性格、投資の目的や趣旨、投資経験の有無・内容等に照らして最も適合した投資勧誘を行うことが必要である。そして、ワラント取引、特に外貨建ワラント取引の適合性については、顧客に、①ワラント取引を行うメリットとデメリットを理解する能力があること(ワラントの意義、商品ないし取引構造についてこれを理解し実行できる能力が前提となる。)、②当該ワラントの適正価格の判断が可能であること(外貨建ワラントが相対取引でなされ、価格形成が不透明であるといった点も理解できる能力が前提となる。)、③取引の最適なタイミングを見極める能力があること(外貨建ワラントの価格情報開示の状況を理解できる能力を有し且つ実際に価格情報を入手できる能力が前提となる。)、④権利行使が予想される場合にはその資金能力が必要であること、⑤ワラント投資金額の全額を損失することに耐えられる準備のあること(老後の資金や結婚・教育・住宅資金等一定の使途の決まった資金を一時期の投資に回す場合は、全額損失の覚悟のあるものとはいえない。)を要する。

(二) 説明義務

証券会社は、物的・人的いずれの要素や設備・施設において証券取引を行うに際して、一般大衆投資家とは桁違いの専門的基盤を有している。そして、その基盤の上で実際日常的に証券取引を遂行関与することにより、知識・経験・情報・ノウハウ等を蓄積しており、証券取引の全ての面において、一般大衆投資家に対して絶対的な優越的地位に立っている。特にワラント取引に関しては、ワラントが周知性がなく、商品構造・取引形態が複雑でリスクが非常に高い商品であり、その投資に関与するためには高度の専門的知識が必要である。このような取引の場合には、信義則上、証券会社に説明義務が課される(なお、証券会社に説明義務を課す以上、説明を受ける側がその意味を理解していなければならないから、右説明は、顧客が説明された内容すなわち取引の仕組みやその危険性を理解し納得する程度までなされることが必要である。)。そして、ワラントの金融商品としての右性質からして、説明義務の内容は、商品の構造、取引の仕組み、価格情報、危険の程度及び内容等全般に及ぶ必要がある。したがって、証券会社が右説明義務を尽くさず、一般投資家をして、勧誘された取引の権利内容や危険性の判断を誤らせてワラントを購入させ、よって投資家に損害を生じさせた場合、説明義務を尽くさないでなされたワラント取引の勧誘行為には違法性が認められる。

そして、ワラント取引を勧誘する際の具体的説明義務の内容は、次のワラント投資に当たっての注意点からすると、以下のとおりとなる。

(1) ワラント投資に当たっての注意点

① 株価が権利行使価格近辺であること、すなわち株価が権利行使価格より高すぎても低すぎても投資対象としては不向きであること。

② 権利行使の残存期間が二年未満になると取引が少なくなる傾向があるため、権利行使期間が四年のワラントの場合、実際に取引ができるのは発行後二年程度であること。

③ 一般に価格が一〇ポイント以下のワラントはプレミアムも高く、株価上昇期待も少ないことから取引も少なく売却することが困難であるため、ワラントの価格水準が低すぎないこと。

④ 一般に価格が四〇ポイントを超えると、ギアリング効果が鈍くなるかあるいは働かなくなる傾向があり、また、株価が権利行使価格を上回っていることから上場残高が少なく売却することが困難であるため、ワラントの価格水準が高すぎないこと。

⑤ パリティ(理論価格)とワラント価格(流通価格)とは別個であり、株価とパリティとの間にはギアリング効果が働くが、株価とワラント価格の間には、ワラント価格によってはギアリング効果が働かない場合があること。

(2) 具体的説明義務の内容

① ワラント価格別の商品説明

右(1)③、④記載のとおり、ワラントの値動きはその価格によって大きく異なるから、価格別に商品の特性に関する説明をする義務がある。証券会社が価格が低すぎるワラントや高すぎるワラントを右説明することなく購入させていれば、それはワラントを購入させた時点で投資家に過大なリスクを負わせたことになる。なお、右のとおり、ワラントの価格は株価が上昇しても株価ほど上昇しない場合があり、「株価が上昇すればその数倍儲かりますよ。」という勧誘は虚偽による勧誘となる可能性もある。

② ワラントの権利行使期間に関する説明

右(1)②記載のとおり、権利行使の残存期間が購入後二年未満のワラントは投資対象として不適格であるから、原則として右勧誘行為自体が違法である。

仮に右勧誘行為自体が違法でなかったとしても、権利行使の残期間が購入後二年未満のワラントの購入を勧誘する場合は、そのようなワラントは通常のワラントに比して流通性に乏しく、株価が権利行使価格を下回ったままの状態で売却する機会を失い、出捐額全額を失う危険性の極めて高いワラントであることを十分に理解させるような説明がなされなければならない。

③ 為替レートに関する説明

外貨建ワラントの場合、購入時の為替レートより円安になれば為替差益が得られるが、円高になれば為替差損が生じるから、為替レートと外貨建ワラント価格に関する説明をする義務がある。

④ 売買形態に関する説明

外貨建ワラントの場合は、証券会社が直接顧客と売買する形態をとり、また、ワラントの価格は、一般紙には掲載されておらず、掲載されていたとしても権利行使価格、権利行使期間及び上場残高などワラント価格を形成し且つ投資家にとって必要な情報が掲載されておらず、売買価格がきわめて不明朗であるため、右のようなワラントの売買形態に関する説明をする義務がある。

⑤ ワラントのリスクに関する説明

ワラントは権利行使期間が経過すると無価値となり、また、株式の信用取引と比較しても必ずしも信用取引の方がリスクが大きいとはいえず、ワラント取引のリスクに関する説明をする義務がある。

2  原告X1

(一) 被告従業員による違法な勧誘行為

(1) 適合性の原則違反

原告X1は、大正一三年○月○日生まれで、○○卒業後、昭和五六年頃まで衣料品の小売店を経営していた。その後、原告X1は、有限会社aを設立して右店舗を賃貸し、主として賃料収入と年金で生活している。

原告X1は、本件日本航空ワラント購入当時、既に高齢で、家賃収入及び年金で生計を立てており、右取引により損失を受けた場合その損失の挽回を期待できる状況になかったことから、投資資金につき堅実な資金運用を望んでいた。また、原告X1は、証券取引の経験があったものの、右取引のほとんどは株式の現物取引であり、ワラント取引の経験は全くなかった。したがって、原告X1は、リスクが高く、且つ、投資判断において複雑な要因を理解しなければならないワラント取引に適合性はなく、Bの原告X1に対する本件日本航空ワラントの勧誘行為は適合性の原則に反する違法行為である。

(2) 説明義務違反

Bは、本件日本航空ワラントの購入を勧誘する際、原告X1に対し、「ご迷惑をかけているからあれしかないな。私に任せなさい。」と言ったのみであり、リスク等ワラントに関する説明をしなかった。したがって、Bの原告X1に対する勧誘行為は説明義務違反があり違法行為である。原告X1は、本件日本航空ワラントの購入以前においてもワラント取引を行ったことになっているが、右取引については全く記憶がなく無断売買の可能性がある。

なお、本件日本航空ワラントは、購入単価が三〇ポイントであり、プレミアムが二九・〇五ポイントであるところ、プレミアムが異常に高く、株価上昇期待を折込済みであり、株価との連動性が低く、価格の上昇しにくい異常なワラントであるといえる。しかるに、Bは、本件日本航空ワラントの購入を勧誘するに際して、原告X1に対し、具体的な値動きに基づく説明やさらなる価格上昇の期待に関する合理的な説明をしていない。

(3) 事後の時価等情報開示義務違反

原告が購入した後、本件日本航空ワラントは大幅に下落しているにもかかわらず、被告は、三か月に一回の割合で時価評価のお知らせを送付したのみで、右購入後のワラント価格や株価の見通し等について情報を提供しなかった。したがって、右情報の提供が不十分であったことは事後の時価等情報開示義務違反である。

(二) 損害(合計一三一二万五五〇〇円)

(1) ワラント購入代金の損害

原告X1は、本件日本航空ワラントの権利行使期間が経過したことにより、出捐した代金相当額一一九三万二五〇〇円の損害を受けた。

(2) 弁護士費用

原告X1は、本件訴訟を提起するについて、ワラント取引の性質から原告代理人らに委任せざるを得ず、本件と相当因果関係にある弁護士費用は一一九万三〇〇〇円である。

(三) 消滅時効の主張に対する反論

ワラント取引における損害の確定的な発生は、購入したワラントを売却した時点又は売却しないまま権利行使期間が経過した時点である。本件日本航空ワラントに関する損害は、その権利行使期間である平成五年四月六日が経過した時点で確定的に発生したものであり、原告X1は、消滅時効の起算日である平成五年四月七日から三年以内である平成八年三月二八日到達の内容証明郵便をもって、被告に対し損害賠償の催告をなし、右催告から六か月以内である平成八年九月一九日、本件訴訟を提起しているから消滅時効は中断している。

3  原告X2

(一) 被告従業員による違法な勧誘行為

(1) 適合性の原則違反

原告X2は、昭和七年○月○日生まれで、b教育学部卒業後、英語担当の教師となり、中学校校長を歴任して、平成五年三月三一日、退職した。

原告X2は、ワラント取引当時、高齢であり、定年退職後それまでの蓄えと年金収入で生活している者であって、証券取引の経験はあるものの、少なくともワラント取引の経験はなかった。したがって、原告X2は、投機的なワラント取引の適合性はなく、被告従業員の原告X2に対するワラントの勧誘行為は適合性の原則に反する違法行為である。

(2) 説明義務違反

原告X2は、本件の基礎となるべき事実2記載のワラントの購入以前に、被告の従業員であるD(以下「D」という。)の勧誘により、ワラントを購入したが、右Dは原告X2に対しワラントに関する説明をほとんどしなかった。また、本件の基礎となるべき事実2記載の各ワラントの購入の際においても、Cは、右各ワラントについて、株価が行使価格を下回っており、プレミアムが大きく、また、権利行使の残存期間が短いにもかかわらず、ワラントの真のリスクつまり投資資金の全額を失う危険が極めて高いワラントであるということを理解させるような説明をしなかった。したがって、被告の従業員の原告X2に対するワラントの勧誘行為は説明義務違反があり違法行為である。

(3) 事後の時価等情報開示義務違反

本件の基礎となるべき事実2記載の各ワラントはいずれも権利行使の残存期間が短かったところ、権利行使の残存期間が短かくなったワラントは日本経済新聞にも気配値が掲載されなくなり、原告X2にとっては、被告の従業員から価格情報を聞く以外価格を知る方法がなかった。しかるに、被告は、三か月に一回の時価評価のお知らせを送付するのみで、適宜な形での情報提供をしなかった。したがって、右情報の提供が不十分であったことは事後の時価等情報開示義務違反である。

(二) 損害

(1) ワラント購入代金の損害

原告X2は、本件の基礎となるべき事実2記載の各ワラントの権利行使期間が経過したことにより、出捐した代金相当額合計二一〇八万〇八四三円の損害を受けた。

(2) 弁護士費用

原告X2は、本件訴訟を提起するについて、ワラントの性質から原告代理人らに委任せざるを得ず、本件と相当因果関係にある弁護士費用は二一〇万六〇〇〇円である。

三  被告の主張

1  ワラント取引に関する説明義務等

(一) 適合性の原則

ワラントは、同額の資金で株式の現物取引を行う場合と比較すると、より少ない投資資金で多額の利益を得られることがある反面、投資資金全額を失う危険性を併せもち、いわゆるハイリスク・ハイリターンの商品ではあるものの、そのリスクは投資金額に限定されており、リスクに限定のない信用取引や商品先物取引等と比較すると損失が少なく有利な商品である。また、ワラント取引と信用取引を比較すると、信用取引では、最大限でも六か月以内の決済期限が定まっており、損失が生じた場合には既に投資した資金のほかに更に追加証拠金を払い込まなければならないというように損失の額が予め予想できないのに対し、ワラント取引においては、権利行使の残期間は六か月より長いのが通常であり、損失は最大限でも既に投資した金額に限定され、当初から損失額は予測可能であるから、ワラント取引が信用取引よりもリスクが高いとはいえない。このような点からすると、ワラント取引は、ハイリターンを求める一般投資家にとって魅力のある商品といえ、一般投資家に適合性がないとはいえない。

(二) ワラント取引に関する説明義務

ワラント取引により投資を行う場合、投資家は、ワラントが株式と異なって権利行使期間があり右期間を経過すると無価値になること及びワラント価格の変動の幅が株式の価格の変動よりも大きいことを理解していれば足り、投資家がそれ以上にワラントの特質を的確に理解したとしても、それによってワラントの価格の変動を予想することなどは到底不可能である。したがって、証券会社の従業員が顧客にワラント取引を勧誘する際の説明義務も右の範囲に限られるべきである。

2  原告X1について

(一) 違法な勧誘行為の主張に対する反論

(1) 適合性の原則違反

原告X1は、三〇歳前後頃から証券取引を開始し、一時被告との間で取引をし、また、日興證券との間でも取引をしていた。その後、原告X1は、昭和五四年八月二日、被告広島支店に保護預り口座の設定を申し込み、以後、被告との間で継続的に証券取引を行い、同五七年一〇月七日、信用取引口座の設定を申し込み、同六〇年一〇月二九日まで信用取引を行っていた。また、原告X1は、昭和六〇年頃から中井証券との間でも証券取引を開始し、信用取引も行っていた。

原告X1は、右のとおり、被告との間でワラント取引をする以前に複数の証券会社との間で相当の証券取引の経験があり、また、信用取引の経験も有するとともに、相当の理解力も有しており、また、後記(2)のワラント取引に至る経緯に照らしても、同人がワラント取引について適合性がなかったとはいえない。

(2) 説明義務違反

原告X1と被告間のワラント取引は、平成二年四月五日、原告X1が被告広島支店を訪れた際、被告の従業員であり原告X1の担当者であったBに対し「何かいい商品はないか。」と相談したことから始まった。株式相場は平成二年に入って全体として下降傾向にあったが、同年三月には反騰局面となったことから、Bは、ワラントの購入を勧めることとし、原告X1に対し、ワラント取引説明書を使用して、①ワラントは、新株引受権のことであり、一定の期間内に一定の価格で一定量の新株を引き受ける権利であること、②ワラントには新株を引き受ける期間があり、その期限を経過すると権利が消滅し無価値になること、③ワラントの価格は株式と同方向に動くが株式以上に大きく値上がりし又は値下がりし、ワラントは株式よりハイリスク・ハイリターンであること等を説明した。原告X1は、Bの右説明を聞いた後、ハイリスク・ハイリターンであれば短期間での値上がりも期待できるとして、ワラントを購入する意向を示したので、Bは、原告X1に対し、第二回三井東圧化学ワラントの購入を勧め、その際、同社の業績、株価の動向並びに右ワラントの権利行使価格、権利行使期間及び単価等を伝えた。そして、原告は、平成二年四月五日、第二回三井東圧化学ワラントを購入した。そして、原告X1が本件日本航空ワラントを購入したのは、右第二回三井東圧化学ワラントの外第五回住友不動産ワラント及び第三回トーメンワラントの購入(売却)後である。

右のとおり、原告X1と被告間のワラント取引について、被告の従業員であるBに説明義務違反はない。

(3) 事後の時価等情報開示義務違反

原告X1が主張する取引後における被告の情報提供は新たな取引への勧誘やサービスであり、当該取引についての違法性の問題は生じない。

(二) 損害との因果関係の不存在

仮に原告X1の主張のとおり、原告X1がワラントを購入した当時権利行使期間が経過するとワラントが無価値になることを認識していなかったとしても、ワラント購入後、被告は原告X1に対し、ワラント取引に関する説明書及び三か月ごとに「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」と題する書面等を送付し、右各書面等にはワラントの商品性やリスクに関する説明が記載されているから、原告X1は右書面等の送付を受けることにより権利行使期間が経過するとワラントが無価値になることを認識したものであるから、本件日本航空ワラントが権利行使期間の経過により無価値になったことは原告X1の自己責任に帰すべきものであり、Bの勧誘行為と原告X1の損害の間には因果関係がない。

(三) 消滅時効

仮に原告X1が被告に対し損害賠償請求権を有しているとしても、次のとおり、右損害賠償請求権は時効により消滅しているので、被告は、平成一〇年五月二〇日の本訴第八回口頭弁論期日において消滅時効を援用した。

(1) 原告X1は本件日本航空ワラントの購入代金の出捐を損害と主張しているところ、右ワラント購入代金精算時である平成二年五月一日にその主張する使用者責任による不法行為に基づく損害賠償請求権の「損害及び加害者」を認識したものであるから、右時点から本訴提起時までに三年が経過している。

(2) 仮に消滅時効の起算点が購入代金精算時でなかったとしても、本件日本航空ワラントは、平成四年三月以降、単価は〇・〇一ポイント、原告X1が購入した五〇単位の価格は三〇〇〇円前後で推移しており、原告X1は、右ワラントが以後値上がりする可能性があるとは考えておらず、さらに、同五年二月、被告に対し右ワラントの権利行使をしない旨の連絡票を送付し、遅くとも右時点において損害が確定的に生じたことを認識していたというべきものであり、右時点から本訴提起時までに三年が経過している。

3  原告X2について

(一) 違法な勧誘行為の主張に対する反論

(1) 適合性の原則違反

原告X2は、昭和三〇年代後半頃から広島証券との間で証券取引を開始し株式の現物取引等を行っていた外、同四〇年代頃には信用取引も行い、その後、三洋証券との間でも証券取引を行っていた。

原告X2は、右のとおり、被告との間でワラント取引をする以前に複数の証券会社との間で相当の証券取引の経験があり、また、信用取引の経験も有するとともに、相当の理解力も有しており、また、後記(2)のワラント取引に至る経緯に照らしても、同人がワラント取引について適合性がなかったとはいえない。

(2) 説明義務違反

原告と被告間のワラント取引の経過は次のとおりであり、被告の従業員に説明義務違反はない。

① Dの勧誘行為等

原告X2は、平成四年四月九日、被告の従業員であるDの勧誘により東京電力の株式を購入することにより被告との間で証券取引を開始し、同年一〇月一三日、同人が保有していた一一銘柄の株式を被告に預け、同月二二日から同五年三月一六日までの間、右銘柄の一部について、いわゆる「つなぎ売り」による信用取引を行った。

原告X2は、Dに対し、平成四年暮頃から「もっと効率のよい方法はないか。」と相談するようになり、同五年一月下旬ないし同年二月上旬頃の間、ワラントについての説明を求めるようになった。そこで、Dは、その頃、原告X2に対し、①ワラント取引は、一定の期間内に一定の価格で一定数量の新株を引き受けることができる新株引受権という権利の売買であり、現物の株式の取引ではないこと、②ワラントの価格は、同じ銘柄の株価にほぼ連動して上下するが、株価と比較してギアリング効果が大きく、株式の数倍値上がりする代わりに、反対に下がるときも数倍値下がりするハイリスク・ハイリターンの商品であること、③ワラントには、新株引受権を行使することのできる期限が定められており、この権利行使期限が到来すると権利は消滅し、ワラントは無価値になること、④新株を引き受ける権利を行使するには、新たに株式の購入資金を払い込まなければならないこと、⑤実際の株価が権利行使価格を上回ったら、時価よりも安く株式を手に入れることができるが、株価が権利行使価格を上回らなければ、市場で株式を買う方が安く手に入るので権利行使をする意味がないこと等を説明し、その後、原告X2が被告広島支店に来店した際、ワラント取引説明書等を使用してワラントの一般的な商品性を説明した外、直近のワラント価格表を使用して、具体的な銘柄のワラントを例にあげながら、行使価格、パリティ、プレミアム及びギアリング効果等を説明した。そして、原告X2は、平成五年四月一五日、被告にワラント取引確認書を差し入れ、右同日、第四回大和ハウス工業ワラントを購入した。その後、原告X2は、平成五年七月一四日、第三回カシオ計算機ワラントを、同年九月一四日、第二回昭和電線電纜ワラントを購入した。

② Cの勧誘

Dが平成五年一二月一日付の人事異動により被告広島支店から転勤したため、Cが原告X2の担当者となった。

原告X2は、平成五年一二月一三日、被告広島支店に来店し、Cに対し、右①記載の第三回カシオ計算機ワラント及び第二回昭和電線電纜ワラントが購入後値下がりしていることについて相談した。そこで、Cは、原告X2に対し、①ワラントは株式と比較して価格の上下が激しいこと、②ワラントは権利行使期間が定められており、権利行使期間が経過すると無価値になること、③ワラントは短期に売買した方がよいこと、④第三回カシオ計算機ワラントの権利行使期間が平成七年一一月二八日であること及び第二回昭和電線電纜ワラントの権利行使期間が同年七月一八日であることを説明した。そして、原告X2がワラントが無価値になるまでに損失分を回復し又は損失を減少させる方法はないかと相談したため、Cは、ワラント価格が上昇しないままでは方法はないが、その後、株価が値上がりし、ワラント価格も上昇する場合には、ナンピン買いという方法により、損失を少なくしたり、場合により利益を得ることもできる旨説明した。そして、原告X2は、平成五年一二月一三日、第三回カシオ計算機ワラント及び第二回昭和電線電纜ワラントを更に購入した。

その後、原告X2は、本件の基礎となるべき事実2記載のワラントの外、第二回昭和電線電纜ワラント、第一回セーレンワラント、第一回小松精錬ワラント及び第三回第一電工ワラントをそれぞれ購入したものである。

(3) 事後の時価等情報開示義務違反

原告X2が主張する取引後における被告の情報提供は新たな取引への勧誘やサービスであり、当該取引についての違法性の問題は生じない。

(二) 損害との因果関係の不存在

仮に原告X2と被告間のワラント取引当初、原告X2がワラント取引のリスクを十分に認識していなかったとしても、遅くともCから勧誘を受け本訴において損害が生じたとするワラント購入の勧誘を受けた時点においては、ワラント取引のリスクを十分に認識した上で購入したものであって、原告X2の損害は、バブル現象崩壊後の株式相場の長期低迷に基づく結果であり、同人の自己責任に帰すべきものであるから、被告の従業員の勧誘行為と原告の損害には因果関係がない。

四  争点

(原告X1の請求)

1 原告X1のワラント取引において被告の従業員に原告X1が主張する違法な勧誘行為等があったか否か。

2 仮に違法な勧誘行為等があった場合、原告X1の損害と右勧誘行為の因果関係の有無

3 消滅時効の成否

(原告X2の請求)

1 原告X2のワラント取引において被告の従業員に原告X2が主張する違法な勧誘行為等があったか否か。

2 仮に違法な勧誘行為等があった場合、原告X2の損害と右勧誘行為の因果関係の有無

第三争点に対する判断

一  ワラント取引について

証拠(甲二、三、乙五の1、二二の1、弁論の全趣旨)によると、以下の事実が認められる。

1  ワラントの意義

ワラントは、昭和五六年の商法改正で創設された新株引受権付社債制度の下で発行される分離型新株引受権社債(ワラント債)の社債部分(エクスワラント)から切り離され、それ自体で独自に取引の対象とされている新株引受権ないしこれを表章する証券であり、発行会社の新株を、一定期間(権利行使期間)内に、一定の価格(権利行使価格)で、一定の数量を購入することのできる権利である。

2  ワラントの性質

ワラントないしは本訴において問題となる外貨建ワラントには次のような特質がある。

(一) 権利行使期間

右1記載のとおり、ワラントは権利行使期間内にその権利を行使して新株を引き受ける権利であるから、権利行使期間内に権利行使価格を払い込むことにより新株を引き受けることができるし、また、右期間内にワラントをそのまま売却することができる。しかしながら、権利行使期間を経過すると、権利を行使することができなくなるから、ワラントは無価値となる。ところで、ワラント債発行会社の株価が権利行使価格を上回っている場合、ワラントの保有者は権利を行使することにより一般市場で株式を取得するより有利に新株を取得することができるが、株価が権利行使価格を下回っている場合、保有者は新株引受権を行使する経済的な意義を有しないことになる。また、ワラント債発行会社の株価が権利行使価格を下回っている場合、権利行使の残存期間が短くなればなるほど、その間の株価上昇の期待が少なくなり、権利行使期間が残存していたとしても、株価の上昇の見通しがない限り、事実上無価値となる。なお、権利行使の残存期間が二年未満となり、且つ、ワラント債発行会社の株価が権利行使価格を下回っているワラントは取引が少なくなる傾向がある。

(二) ワラントの価格

前記1のとおり、ワラントがその権利を行使して新株を引き受ける権利であるから、ワラントの理論価格(パリティ)は、ワラント債発行会社の株価と権利行使価格の差額により決定され、左記の計算式により算出される。これに対し、ワラントの市場価格(以下「ワラント価格」という。)は、右パリティと権利行使期間までにワラント債発行会社の株価が上昇する期待から生まれるプレミアムにより構成され、ワラント価格は、基本的には株価に連動して変動するものの、その変動率は株価の変動率より格段に大きく(ギアリング効果。なお、ギアリング効果は正確にはパリティと株価の間で成り立ち、ワラント価格と株価の間で必ずしも成り立つものではないから、ワラント価格を構成するプレミアムの比率の大きいワラントの価格変動は株価の変動と対比すると複雑となる。)、また、株価の相場状況、ワラントの流通量、権利行使の残存期間等により変動し、価格の変動を予測することはかなり困難である。

外貨建ワラントの場合、権利行使により引き受けることのできる株式数の算出の為替レートはワラント発行時に定まっているため、ワラント発行後の為替レートの変動は右引受株式数には影響を与えないが、購入及び売却の際の価格は、実勢為替レートによるため、仮にワラントの価格が一定であったとしても、売却する際、為替差損又は為替差益が生じる場合がある。また、外貨建ワラントは、国内の証券取引所に上場されていないため、実際上、店頭市場において、証券会社と顧客の間で取引がなされており(相対取引)、顧客側から見た売値(証券会社側から見た買値。ビッド)と顧客側から見た買値(証券会社側から見た売値。オファー)には通常一・五ポイントの差額があり、右差額が証券会社の利益となる。なお、ユーロ・ドルのワラントの気配値は、平成元年五月一日から特定の銘柄について発表されるようになり、また、平成二年九月二五日から、日本相互証券で行われる外貨建ワラントの業者間取引の気配値一覧(前日取引分の中値)が日本経済新聞等に掲載されるようになった。外貨建ワラントについては、価格の変動の予測が困難であるワラントの一般的な性質に加えて、右のとおり、為替レートの影響、店頭市場における相対取引であること、顧客が通常得ることができる情報が限られることにより、一層価格の予想は困難である。

パリティ=(株価-権利行使価格)/権利行使価格×付与率×100

なお、外貨建ワラントの場合は次のとおりとなる。

パリティ=(株価-権利行使価格)/権利行使価格×付与率×固定為替/時価為替×100

二  原告X1の請求

1  原告X1の属性とワラント取引の経緯

(一) 原告X1の属性

証拠(甲五、乙一の1、二、九、一〇の1ないし6、一一、一二、証人B、原告X1)を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 職歴等

原告X1は、大正一三年○月○日生まれで、○○卒業後、昭和二五年頃から同五六年頃まで婦人服・日用雑貨の小売店を経営し、一時期右小売店が入店していた△△のテナント会長をしていた。原告X1は、昭和五六年頃、同人の妻が体調を崩したため、右店舖を閉店して賃貸することとし、有限会社aを設立して、同五七年以降、同社が賃料収入を管理し、原告X1は同社を通じて収入を得て生計を立てていた。

(2) 証券取引の経験

原告X1は、三〇歳前後頃一時期被告との間で証券取引を行い、また、その後、約二年間日興證券との間でも証券取引をしていた。

原告X1は、昭和五四年八月二日、被告広島支店に保護預り口座を開設し、同年九月一一日、富士電機株一万株の買付を始めとして、以後、被告との間で継続的に証券取引を行い、同五七年一〇月七日、被告広島支店に信用取引口座を開設し、同年一〇月一五日、本田技研工業株一〇〇〇株の買付を始めとして、同六〇年一〇月二九日まで信用取引を行っていたが、右信用取引において差引六五四万三三五二円の損失が生じたため、同社の間での信用取引を止めた。ただ、原告X1は、被告との間で信用取引を止めた後も、株式の現物取引あるいは転換社債の取引等を継続していた。

原告X1は、被告との間での証券取引と併行して、昭和六〇年頃から中井証券との間で証券取引を開始し、右取引においては、バブル現象崩壊による株式取引の損失を取り戻すため、約三年間株式の信用取引を行い、右信用取引に関する投資額は約一〇〇〇万円であった。

(二) ワラント取引の経緯

(1) 原告X1の担当者の変更等

証拠(甲三三、乙九、三七、証人B)を総合すると、以下の事実が認められる。

Bは、平成元年一一月、営業課課長代理として被告広島支店に転勤し、前任者から引き継いで原告X1の取引口座を担当することになった。

原告X1は、平成二年一月八日、株式会社cから前記店舗の賃貸借契約に基づく敷金三〇〇〇万円が入金されたことから、同年二月九日、Bの勧誘により、右敷金の一部でジャーマンファンド九〇-〇二(投資信託)(数量一〇〇〇・単価一万円・代金一〇〇〇万円)を購入した。その後、原告X1は、同年二月一四日、中井証券で購入した東洋建設株一〇〇〇株、昭和電工株一〇〇〇株及び日本電信電話株一株を被告広島支店に預け入れるとともに、Bの前任者が担当していた当時に購入した住友金属工業株一〇〇〇株、日鉄セミコンダクター株一株及びエス・バイ・エル株一〇〇〇株を売却し、東京製鐵株一〇〇〇株(代金五六九万六四四四円)を購入した。また、原告X1は、平成二年三月七日、住友金属工業株四〇〇〇株及びポリグラム・エヌ・ブイ株一〇〇〇株を売却し、同月一四日、日本ビクター株一〇〇〇株(代金二九五万九〇六〇円)を、同月一二日、同じく日本ビクター株一〇〇〇株(代金二九五万九一六〇円)を、また、同月一五日、第一回ユニデンCB(転換社債)(数量一〇〇〇・単価一〇〇円・代金一〇〇万円)を購入した。

(2) 本件日本航空ワラント購入前のワラントの購入

証拠(甲三三、乙五の1、2、九、一三、一四の1、2、三七、証人B)を総合すると、以下の事実が認められる。

① 原告X1は、平成二年四月五日、被告広島支店に来店し、Bが同支店応接ブースで応対した。その際、Bは、原告X1から株式相場の見通しを質問されるとともに、「何かいい商品はないか。」と言われたため、当時、平成二年当初下落を続けていた株式相場が反騰する傾向にあり、原告X1が株式投資の経験も豊富であったことから、原告X1に対しワラントの購入を勧めることにした。

そこで、Bは、原告X1に対し、当時のワラント取引説明書を使用して、ワラントとは新株引受権のことであること、ワラントは株式以上にハイリスク・ハイリターンの商品であること、ワラントの場合、ワラント自体を売却するか新株引受権の権利行使をするか選択できること、ワラントは権利行使期間が四年のものが多く、権利行使期間が経過すると無価値になること及び外貨建ワラントは為替リスクがあることを説明した。右説明に対し、原告X1がハイリスク・ハイリターンであるならば、短期間で値上がりが期待できる旨述べたことから、さらに、Bは、ワラントは証券会社と顧客の相対取引であること、代表的なワラントの価格は日本経済新聞に掲載されていること、パリティについて、ワラントの理論価格であり、市場価格はパリティを基礎として形成されていること、また、プレミアムについて、ワラントの市場価格と理論価格の差額であり、銘柄の人気あるいは株式の値上がりに対する期待であることを説明した。そして、Bは、原告X1に対し、会社四季報を使用して、第二回三井東圧化学ワラントを含む数種の銘柄のワラントについて、権利行使価格、権利行使期間、現在の株価、ワラント単価及び為替等を説明した上、第二回三井東圧化学ワラントの購入を勧誘した。

原告X1は、右同日、Bの右勧誘により、第二回三井東圧化学ワラント(数量一〇〇・単価九・〇〇ポイント・代金七一六万一七五〇円)を購入した。また、原告X1は、右同日、Bの前任者が担当していた当時に購入したネーションズバンクコーポレーション株二〇〇株(代金一一六万四二二〇円)及び前記第一回ユニデンCB(転換社債)(代金九四万一〇四四円)を売却した。そして、原告X1は、右同日、印鑑を持参していなかったため、ワラント取引確認書が綴り込んであるワラント取引説明書を持ち帰り、平成二年四月五日付のワラント取引確認書に署名押印して、遅くとも同月一一日までに被告広島支店に差し入れた(乙五の2には平成二年四月一一日付の受付印が存在する。)。

なお、右ワラント取引説明書(表紙右下欄に「平.元.05現在」と記載のあるもの)には、ワラント債の意義の記載、外貨建ワラントと為替リスクについて、「外貨建ワラント債に投資する場合は、為替の影響を考慮に入れる必要があります。ワラントの価格が一定だとしても、為替が購入時よりも円高になれば、為替差損が生じ、逆に円安になれば、為替差益が生じることになります。」等の記載、用語説明として、行使価格、行使期間、付与率及び非分離型ワラント債の説明があり、右行使期間については、「新株式を購入(引受け)できる期間のことで発行時にきめられています。この期間中にワラントを行使しないと、ワラントの経済的価値はなくなります。」との記載、「ハイリスク、ハイリターンのワラント投資」との標題の下に「…ワラントが株式の数倍の速さで動くということがワラントの最大の特徴です。値上がりも値下がりも株式の数倍の速さで動くことになるからです。値上がりすればハイ・リターン、値下がりすればハイ・リスクになることになります。つまり、株式を売買するよりも少額のご資金で、株式に投資した場合と同等以上の利益を上げることも可能です。反面、値下がりも激しく、場合によっては投資金額の全額を失うこともあります。」等の記載がなされていた。

② その後、Bは、購入の翌日である同月六日、原告X1に電話をして、第二回三井東圧化学ワラントが値上がりしたことを伝えた上、売却を勧誘し、その結果、原告X1は、右同日、右ワラントを売却し(数量一〇〇・単価一〇・〇〇ポイント・代金七六八万六二六三円)、利益五二万四五一三円が発生した。右同日、Bは、原告X1に対し、第五回住友不動産ワラントの購入を勧誘し、原告X1は、同ワラント(数量一〇〇・単価一二・〇〇ポイント・代金九四五万六〇〇〇円)を購入した。そして、原告X1は、第五回住友不動産ワラントの購入代金として、同月九日、五五〇万円、同月一〇日、一三二万六二二三円を被告広島支店に現金入金した(右現金入金合計六八二万六二二三円は、右第五回住友不動産ワラント購入代金九四五万六〇〇〇円から、右認定による、同月五日付のネーションズバンクコーポレーション株売却代金一一六万四二二〇円及び第一回ユニデンCB〔転換社債〕売却代金九四万一〇四四円並びに同月六日付の第二回三井東圧化学ワラントの利益五二万四五一三円の合計額二六二万九七七七円を控除した金額に一致する。)。

③ Bは、原告X1に対し、右第五回住友不動産ワラントの価格を電話で連絡していたところ、同月二〇日、右ワラントの売却を勧誘し、その結果、原告X1は、右ワラントを売却し(数量一〇〇・単価一三・〇〇ポイント・代金一〇〇七万二三三五円)、利益六一万六三三五円が発生し、右同日、第三回トーメンワラント(数量一〇〇・単価一三・五〇ポイント・代金一〇六四万四七五〇円)を購入した。そして、原告X1は、同月二四日、第三回トーメンワラントの購入代金として、五七万二四一五円を被告広島支店に現金入金した(右五七万二四一五円は、第三回トーメンワラント購入代金一〇六四万四七五〇円から、右認定による第五回住友不動産ワラント売却代金一〇〇七万二三三五円を控除した金額に一致する。)。原告X1が購入後、第三回トーメンワラントの価格は下落した。

なお、被告は、本店から顧客に対し月一回程度の割合で月次報告書を送付して、預かり金銭及び証券等各残高を報告し、右残高等に相違がなければ顧客が回答書に署名・押印した回答書を返送していたところ、原告X1に対する平成二年四月一三日付月次報告書には、証券残高として第五回住友不動産ワラントが記載され、原告X1は、右報告書記載の各残高に相違ない旨の同月二〇日付回答書を被告に対し送付し、また、同じく同月二七日付月次報告書には、証券残高として第三回トーメンワラントが記載され、原告X1は、右報告書記載の各残高に相違ない旨の同年五月一三日付回答書を被告に対し送付した。

以上のとおり認められる。

これに対し、原告X1は、本件日本航空ワラント以外のワラント取引は全く知らない旨供述し(甲五、第九回口頭弁論期日原告X1本人調書〔以下「第九回原告X1調書」と表示する。以下同様〕四二ないし四五項、第一〇回原告X1調書七九ないし八四項)、また、ワラント取引説明書(乙五の1)はBから本件日本航空ワラントを購入した旨の電話があってからかなり後に受領したものであり(第九回原告X1調書七五、七六項、第一一回原告X1調書二一項)、ワラント取引確認書(乙五の2)は本件日本航空ワラント購入後半月あるいは約二〇日経過してからワラント取引説明書の説明書部分はなく右確認書部分のみをガリ版刷り様の用紙と同封して送付されてきたものである旨(第九回原告X1調書八〇ないし八八項、第一一回原告X1調書一〇ないし二五項)。しかしながら、右認定のとおり、原告X1は第五回住友不動産ワラント及び第三回トーメンワラントの各購入代金の不足金をそれぞれ現金入金していること(特に、原告X1は、第五回住友不動産ワラントの購入代金の不足金として、平成二年四月九日及び同月一〇日に合計六八二万六二二三円を現金入金しているが、前記認定のとおり、原告X1は、株式の信用取引を含む証券取引の経験があり、従前被告との間で株式の信用取引を行っていたが、損失が多かったため、信用取引のみを止め、株式の現物取引あるいは転換社債の取引のみに変更するなど一定の経済的判断をすることができるのであるから、六八〇万円余りの多額の資金を投資するに際し、全く何に投資するのか分からないままその決済金を支払ったとは考え難い。)、第三回三井東圧化学ワラント及び第五回住友不動産ワラントは利益が出ており、Bから右各ワラントの購入後価格等について何の連絡もなかったとは通常考え難いこと、被告は、顧客が証券取引を行った場合、取引約定日の翌日、取引証券の種類、銘柄、単価及び代金等を記載した取引報告書を顧客に送付しており、原告X1も右取引報告書によりワラントを購入したことを知り得たこと(第八回B調書一四一ないし一四六項、第一〇回原告X1調書三七ないし四九項)、原告X1作成のワラント取引確認書(乙五の2。なお、原告X1は右確認書に署名・押印したことを認めている〔第九回原告X1調書八〇ないし八三項〕)は、平成二年四月五日付であり、仮に原告X1が右日付の記載をしていなかったとしても、遅くとも同月一一日までには右確認書は被告広島支店に差し入れられていたものであって、署名押印前の右確認書が本件日本航空ワラント購入(同月二五日)後送付されてきた旨の原告X1の供述部分と客観的に相違していること、また、被告は、右当時、ワラント取引説明書を大量に印刷していたと推認される(弁論の全趣旨)ところ、殊更右取引説明書から確認書部分のみを切り取り、それをガリ版刷り様の用紙とともに送付するとは考え難いこと等の諸事情に照らすならば、当該ワラント取引が原告X1が法廷において供述した時期の八年以上前のことであり、且つ、原告X1が老齢であることを斟酌したとしても、原告X1の右供述部分は採用することはできない。

Bは、被告広島支店在勤当時約五〇〇人の取引口座を担当し、原告X1は右顧客の一名にすぎず(第八回B調書一三ないし二一項)、右のとおり、原告X1のワラント取引が証人Bが法廷において証言した時期の八年以上前のことであり、Bは、原告X1に対し、ワラントの権利行使価格が株価を下回った場合のリスクに関する具体的な説明内容に関し記憶がない旨(第九回B調書二一、二二項)、また、本件日本航空ワラント以外の三銘柄のワラントのパリティ及びプレミアムに関する具体的な説明内容についての記憶がない旨(第九回B調書二四項)各証言していることに照らすと、同人の証言がどれだけ正確なであるのか疑問の余地がないではない。しかしながら、被告広島支店においてBが担当していた顧客の内原告X1は頻繁に取引を行っていた三〇ないし四〇名に含まれ、且つ、原告X1はBが勧誘して実際にワラント取引を行った一六、七名の内の一人であること(第八回B調書二〇ないし二五項)からすると、証人Bにおいて、原告X1のワラント取引に関する記憶があっても不自然とまではいえないし、右認定のとおり、証券取引の経験があり、一定の経済的判断能力を有する原告X1に対し、新たに多額の資金を出捐してもらう取引について何ら説明をしなかったとは考え難いこと、また、右認定説示のとおり、原告X1の供述部分を採用することができないことを総合勘案するならば、証人Bの証言を採用せざるを得ないと解する。

(3) 本件日本航空ワラントの購入経緯等

本件の基礎となるべき事実1に証拠(甲二二ないし三二の1、2、乙九、一三、一五の1、一六の1ないし18、三七ないし四〇、証人B)を総合すると、以下の事実が認められる。

① 購入経緯等

Bは、日本航空株が従前の五〇〇円額面が五〇円額面に額面変更するとのことで、株式及びワラントとも価格が上昇傾向にあり、他方、右(2)③の認定のとおり、原告X1が平成二年四月二〇日に購入した第三回トーメンワラントの価格が下落していたため、同月二五日、原告X1に対し、第三回トーメンワラントの売却及び本件日本航空ワラントの購入を勧誘し、原告X1は、右同日、第三回トーメンワラントを売却し(数量一〇〇・単価一二・〇〇・代金九四九万九四一六円・損失一一四万五三三四円)、本件日本航空ワラント(数量五〇・単価三〇・〇〇・代金一一九三万二五〇〇円)を購入した。そして、原告X1は、平成二年五月一日、本件日本航空ワラントの代金として二四三万三〇八四円を被告広島支店に現金入金した(右二四三万三〇八四円は、本件日本航空ワラント購入代金一一九三万二五〇〇円から右第三回トーメンワラント売却代金九四九万九四一六円を控除した金額に一致する。)。

② 本件日本航空ワラントの権利内容等

本件日本航空ワラントの権利行使価格、株価及び権利行使の残期間等は次のとおりである。

権利行使価格 一万六七〇八円(後に権利行使価格は一万六二二一・四〇円に変更になる。)

株価 一万六九〇〇円(なお、ワラント購入時におけるワラント債発行会社の株価を正確に把握することは資料上困難であるから、本訴においては、ワラント購入日の終値を株価とする。)

単価 三〇ポイント

固定為替 一三二・八五円

時価為替 一五九・一〇円

パリティ 〇・九六ポイント

(前記一2(二)の算式による。)

プレミアム 二九・〇四ポイント(プレミアムはワラント価格とパリティの差額)

権利行使残期間 二年一一月

なお、本件日本航空ワラントの売り気配値(証券会社を主体とした売り気配値であり、証券各社の平均値)は、原告X1の購入前である平成二年四月二三日、一九・三〇ポイント、同月二四日、二〇・二二ポイント(前日比〇・九二ポイント上昇)、原告X1の購入日である同月二五日、二九・六六ポイント(前日比九・四四ポイント上昇)であった。

③ 本件日本航空ワラント購入後の状況

原告X1が本件日本航空ワラントを購入た後、翌日である平成二年四月二六日、日本航空の株価一万六五〇〇円、右ワラントの売り気配値二五・五九ポイント、買い気配値二四・〇九ポイント(なお、原告X1が右ワラント購入後においては、原告X1が証券会社へ売却する場合の価格、すなわち証券会社の買い気配値が意義を有することになる。)、同月二七日、株価一万六四〇〇円、売り気配値二四・六九ポイント、買い気配値二三・一九ポイント、同年五月一日、株価一万七〇〇〇円、売り気配値二六・四四ポイント、買い気配値二四・九四ポイント、同月八日、株価一万六九〇〇円、売り気配値二七・二七ポイント、買い気配値二五・七七ポイント、同月一六日、株価一万八五〇〇円、売り気配値二八・五〇ポイント、買い気配値二七・〇〇ポイント、同月二二日、株価一万八一〇〇円、売り気配値二七・二一ポイント、買い気配値二五・七一ポイント、同月二九日、株価一万七九〇〇円、売り気配値二八・四一ポイント、買い気配値二六・九一ポイントとなった。そして、被告は、本店から顧客に対し、平成二年二月から当初三か月に一回程度、その後、一か月に一回程度の割合で外貨建ワラント時価評価のお知らせを送付しており、原告X1にも右書面が送付されていたところ、右書面によると、本件日本航空ワラントは、平成三年五月三一日、買い気配値四・二五ポイント、平成三年一一月二九日、買い気配値〇・七五ポイント、平成四年一月三一日、買い気配値〇・〇一ポイント、同年二月二八日、買い気配値〇・二五ポイント、同年三月三一日以降、買い気配値〇・〇一ポイントとなった。原告X1は、被告から本件日本航空ワラントについて権利行使するか否かの問合せに対し、平成五年二月二六日、権利行使しない旨回答し、右ワラントは、権利行使期間の経過により権利消滅した。

なお、原告X1は、本件日本航空ワラントを購入して一か月が経過した頃、右外貨建ワラント時価評価のお知らせを送付を受けて、右ワラントの価格を知り、Bに対し苦情を述べた。また、Bは、平成五年五月末頃、原告X1に対し、翌六月の人事異動により転勤する旨伝えたところ、原告X1は、被告広島支店に来店し、Bに対し、ハイリスク・ハイリターンの商品であるワラントの購入を勧誘したことに関して強く抗議した。

2  争点1(原告X1のワラント取引において被告の従業員による違法な勧誘行為があったか否か)

(一) 説明義務違反

(1) 証券取引は、本来損失を受ける危険性を伴うものであり、証券の取引価格が複雑で且つ多種多様な要因により形成されるものである以上、証券会社が投資家に提供する情報や助言も右不確実な要素を含む見通しにすぎず、基本的には、投資家が右情報等を基礎として自らの責任で利益を得る見込みや損失を受ける危険性等を判断して証券取引を行うべきである。しかしながら、証券会社は、証券取引に関して高度の専門的知識や経験を有するとともに、証券発行会社に関する豊富な情報を有しているため、一般の投資家は証券会社が提供する情報を信頼して投資判断を行い、また、証券会社は投資家の右信頼に基づき営業活動を行うことができるものと考えられる。したがって、証券会社及びその使用人は、投資家に対し証券取引を勧誘するに当たっては、投資家が当該証券取引を熟知している場合を除き、当該証券取引により得ることのできる利益の見込みや損失を受ける危険性に関する情報を提供し、投資家が当該取引について正しい理解を形成した上で、自主的な投資判断ができるよう配慮すべき信義則上の義務があるというべきである。

本件で問題となっている外貨建ワラントについては、前記一の認定のとおりの意義及び性質を有していることに照らすと、証券会社は、投資家に対しワラントを勧誘するに当たって、①ワラントが権利行使期間内にその権利を行使して新株を引き受ける権利であり、権利行使期間を経過すると無価値となること、なお、権利行使の残存期間が短く、且つ、ワラント債発行会社の株価が権利行使価格を下回っているワラントについては、権利行使期間を経過する前であっても、事実上売却が困難となる可能性が高いこと、②ワラント価格は、基本的には株価に連動して変動するものの、その変動率は株価の変動率より格段に大きいことを説明する義務があると解する。

(2) 原告X1のワラント取引に関する説明義務違反の有無

右1(二)(2)の認定のとおり、被告の従業員であるBは、原告X1にワラントを勧誘するに当たって、当時のワラント取引説明書を使用して、ワラントは、新株引受権であり、ワラント自体を売却するか新株引受権の権利行使をするか選択できること、ワラントは権利行使期間が四年のものが多く、権利行使期間が経過すると無価値になること、ワラントは株式以上にハイリスク・ハイリターンであること、外貨建ワラントは為替リスクがあることを説明しているから、Bに説明義務違反があるとは認められない。

そして、右1(二)(3)の認定のとおり、本件日本航空ワラントは、原告X1が購入した平成二年四月二五日当時、株価は権利行使価格をやや上回っており、且つ、権利行使の残存期間は約三年であったから、原告X1が主張するワラント投資の注意点に照らしても、購入を勧誘するのが不相当なワラントであったとまで解することができない。もっとも、本件日本航空ワラントは、プレミアムの比率が大きく、前記一の認定のとおり、ギアリング効果はパリティと株価の間で成り立ち、プレミアムの比率の大きいワラントの価格変動は複雑であって、実際、原告X1が本件日本航空ワラントを購入した後、株価は、一旦下落したものの、その後、購入時の価格を上回っている時期もあったにもかかわらず、ワラント価格は購入時の価格を上回ることがなかったことが認められる。右事実からすると、Bが原告X1に対し、プレミアムの比率の大きいワラントについては、必ずしもギアリング効果が生じない場合がある旨の説明をしていた方がより適切であったと解されるものの、右認定のとおり、原告X1が本件日本航空ワラントを購入した当時、株価は権利行使価格をやや上回っており、且つ、権利行使の残存期間も短くはなかったことに加えて、本件日本航空ワラントの価格が購入前から上昇傾向にあり、且つ、株価も結果的に右購入後更に上昇したことに照らすならば、Bの右説明不足が説明義務に反して違法であるとまで解することは困難である。

(二) 適合性の原則違反について

右1(一)の認定のとおり、原告X1は、Bからワラント取引を勧誘された当時、六五歳であり、以前経営していた婦人服・日用雑貨の小売店も閉店し、右店舗の賃料収入を有限会社aを介して取得して生計を立てていたこと、原告X1は従前ワラント取引の経験がなかったこと、右ワラント取引の一部には前記賃貸店舗の敷金が使用されたことが窺われること、また、前記一の認定のとおり、ワラント取引、特に外貨建ワラント取引は、価格形成要因が複雑で、損失を受ける危険性が高いことが認められるものの、右1一の認定のとおり、原告X1は、被告のほか複数の証券会社と取引を行い、信用取引の経験もあったこと、原告X1は、証券会社からの勧誘に取引をすることが多かったものの、信用取引の損失が多くなると右取引を中断するなど一定の経済的判断をする能力を有していたこと、前記敷金についても一部は定期預金(第九回原告X1調書六三項)やワラントよりも損失の危険性の少ない投資信託に分散投資されていることに照らすならば、原告X1は、ワラント取引に関する的確な説明あるいは情報提供がなされたならば、右取引を理解することができ、右取引にも耐え得る資力を有していると認められ、原告X1がワラント取引に適合性を有していないと解することはできない。

(三) 情報提供義務違反

前記一の認定のとおり、ワラント価格に関する情報は限定されており、ワラント価格の形成要因が複雑であることが認められ、したがって、証券会社又はその従業員が投資家にワラントの購入を勧誘するに当たっては、前記のような信義則上の説明義務が生じると解されるところ、投資家が取得したワラントを売却する場合には、右情報あるいは説明に基づき、自己の投資判断によって売却する時期・数量等を決定すべきであって、仮にワラント売却に関する情報が不足していたのであれば、自己の責任において証券会社又はその従業員等に問い合わせるなどすることが必要であり、ワラント取引自体が購入あるいは売却により完結していることに鑑みれば、右購入の際において情報の提供及び説明がなされている以上、投資家のワラント取得後、証券会社又はその従業員に情報提供義務があるとは解することはできない。

二  原告X2の請求

1  原告X2の属性とワラント取引の経緯

(一) 原告X2の属性

証拠(甲四、原告X2、弁論の全趣旨)を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 職歴等

原告X2は、昭和七年○月○日生まれで、b教育学部を卒業した後、中学校の英語担当の教師となり、平成五年三月三一日、d中学校校長の職を最後に退職した。

(2) 証券取引の経験

原告X2は、昭和三〇年代後半頃から約一〇年間、広島証券との間で証券取引を行い、一時期株式の信用取引も行った。また、原告X2は、昭和六二、三年頃から約三、四年間、三洋証券との間でも株式の取引を行った。

(二) ワラント取引の経緯

(1) ワラント取引前の取引経緯

証拠(甲四、五八、五九の1ないし4、乙一九、二〇、二三、二四の1、2、二五、二六、四七、証人D、原告X2)によると、以下の事実が認められる。

① 原告X2は、平成四年二月頃、約一年後に定年退職予定であったため、退職金で同人の長女に右長女が居住する沿線である京阪電気鉄道株を買い与えようと考え、出張の折り、被告広島支店を訪問し、その際、Dが応対した。原告X2は、Dに対し、京阪電気鉄道株のことを相談したが、Dが京阪電気鉄道株はあまり値上がりが期待できず妙味が少ないとの意見であったため、相談のみで帰宅した。

その後、原告X2は、被告広島支店へ来店又は電話をしてDに対し何回か株式投資に関する相談をした後、平成四年四月九日、被告広島支店に総合取引及び保護預り口座を開設し、Dから、短期的な値上がりは期待できないものの、貯蓄性の高い安定した銘柄として東京電力株の購入を勧められ、右同日、同株五〇〇株を購入した。

② 原告X2は、Dに対し他社で買い付けた株式に関する相談をしているうちに、Dから右保有株式を被告の預かり銘柄とすることを勧誘され、平成四年一〇月一三日、保有株式一一銘柄を被告に預け入れた。預入後、Dは、右当時、株式相場の値下がり感が強い時期であったため、原告X2に対し右預かり株式を利用した「つなぎ売り」(株式の信用取引の一種で、預託された株式の銘柄について、預託された株式数の範囲内で信用取引の売建玉を行い、株式価格が下がった時点で決済して利益を確定する株式投資の方法)を勧誘した。原告X2は、Dからの右勧誘時において、同人の説明が不十分であったこともあって、つなぎ売りの仕組みをよく理解しないまま、Dから心配は不要である旨の言辞を信じて、「つなぎ売り」を行うことを承諾した。原告X2は、右承諾後、被告広島支店より信用取引口座設定約諾書が送付されてきたことから、右「つなぎ売り」が株式の信用取引の一種であることを知り、平成四年一〇月一五日、被告広島支店に信用取引口座を開設した。

原告X2は、平成四年一〇月二二日、Dの勧誘により、グンゼ株一〇〇〇株、松下電器産業株一〇〇〇株及びカシオ計算機株一〇〇〇株の三銘柄の売建玉を行うことにより右「つなぎ売り」を開始した。右「つなぎ売り」は、預け入れられた一一銘柄の内八銘柄(なお、三銘柄については「つなぎ売り」が二回行われた。)について行われ、平成四年一〇月に売建玉を行った五銘柄の内日立電線株二〇〇〇株、グンゼ株一〇〇〇株、松下電器産業株一〇〇〇株及びカシオ計算機株一〇〇〇株の四銘柄が同年一一月一七日までに決済され(なお、同年一二月には「つなぎ売り」の決済なし)、右取引によりわずかながらもいずれも利益が出て、原告X2は合計九万二六五〇円の利益を取得した。また、平成四年一一月に売建玉を行った五銘柄も同五年三月五日までに決済され、右取引によりいずれもわずかながらも利益が出て、原告X2は合計八万一九九六円の利益を取得した。しかしながら、平成四年一〇月二二日に売建玉を行ったマキタ株一〇〇〇株は、同年一一月末頃及び同五年一月末頃の時点で一六万円の評価損、同五年二月末頃の時点で一三万円の評価損が生じ、結局、決済期限である同年四月二二日、預け入れられていた原告X2保有の同株により決済された。そして、平成五年一月二二日に売建玉を行った日立電線株二〇〇〇株については、同月末頃の時点で二万六〇〇〇円、同五年二月末頃の時点で七万円の各評価損が生じ、その後、内一〇〇〇株は同年三月一六日に決済され一一万九六五一円の損失が生じ、また、残一〇〇〇株は、同年六月二八日、預け入れられていた原告X2保有の同株により決済された。

原告X2は、右日立電線株及びマキタ株の「つなぎ売り」により損失を受けたため、右「つなぎ売り」を止めた。

(2) Dの勧誘によるワラント取引の経緯

証拠(乙二一、二二の1、2、二三、二四の1、2、二七、二八、三六の1ないし8、原告X2〔但し、後記採用しない部分を除く。〕、証人D〔但し、後記採用しない部分を除く。〕)によると、以下の事実が認められる。

① 原告X2は、平成五年四月上旬頃、Dに対し、「つなぎ売り」におけるマキタ株及び日立電線株取引によって損失が生じたことにつき苦情を述べた。これに対し、Dは、「ワラント取引で一気に損失を取り返しませんか。」と述べ、原告X2からワラントのことを尋られると、ワラントの価格は株価と同じように連動するものである旨説明した上、「いい会社を選んで、一年半位期間のあるものを選びましょう。」、「危ないと思ったときには直ぐに手をうつから。」と述べて、原告X2に対しワラント取引を勧誘した。そこで、原告X2は、損失を受け危険性がある場合にはその危険を回避し指導する旨のDの言辞を信じ、「つなぎ売り」による損失を取り返したいと考え、ワラント取引を行うことを決意した。

原告X2は、その頃、被告から何回かワラント取引説明書(乙二二の1)の送付を受けた。右ワラント取引説明書は国内ワラント及び外貨建ワラントの説明書が一体となっており、外貨建ワラントの説明書には、Ⅰ「『ワラントは期限付の商品であり、権利行使期間が終了したときに、その価値を失うという性格をもつ証券です。』したがって、ワラントを買い付けた場合は、所定の行使期間内にワラントをワラントのまま売却するか、新株引受権を行使して当該発行会社の株式を買い取るか(この場合、別途、新株式の買付代金の追加払込みが必要となります。)を選択しなければなりません。因みに、ワラントを買い付けた後、発行会社の株価が予想どおりに上昇せず、行使価格を上回らないときには、新株引受権を行使して利益を得る機会を失うことになるので注意が必要です。(ただし、この場合、その損失は当該ワラントの買付代金に限定されます。)」(なお、『』部分には赤色下線が引かれている。以下同様)、Ⅱ「『ワラントの価格は理論上、株価に連動しますが、その変動率は株式に比べて大きくなる傾向があります。』したがって、株式を売買するよりも少額の資金で株式を売買した場合と同等以上の投資効果を上げることも可能ですが、その反面、値下がりも激しく、場合によっては、投資金額の全額を失うこともあります。」、Ⅲ『外国新株引受権証券(以下「外貨建ワラント」といいます。)に投資する際は、前記の留意点のほか、外国為替の影響を考慮に入れる必要があります。』と記載されていた。原告X2は、ワラント説明書の右赤色下線部分を読み、右部分の意味を一応理解したが、ワラント取引につき指導する旨のDの前記言辞を重視していた(原告X2調書三二八ないし三三五項。なお、原告X2は、右ワラント説明書はワラント取引開始後間もなく被告から送付されてきた旨供述する〔原告X2調書三二二ないし三二四項〕が、右ワラント説明書と一体となっている国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書が後記認定のとおり平成五年四月一三日付で作成され同月一五日付で被告に差し入れられていることからして、右供述部分は採用できない。)。

原告X2は、被告に対し、平成五年四月一二日、同月九日付の外国証券取引口座設定約諾書を、同月一五日、同月一三日付の国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書(乙二二の2)を差し入れた。

なお、証人Dは、平成四年暮頃から原告X2が電話で「もっと効率の良い方法はないか。」と述べ、翌五年一月末頃から同年二月初旬頃、原告X2からDに対しワラントという商品があると聞いたが、どんなものか説明して欲しいとの電話があった旨(乙四六、D調書八項)、そこで、Dは、原告X2に対し、電話で、Ⅰワラントは一定の期間内に一定の価格で一定数量の新株を引き受けることができる新株引受権という権利の売買であること、Ⅱワラント価格は、同じ銘柄の株価にほぼ連動して上下するが、株価と比較してギアリング効果が大きく、株式の数倍値上がりする代わりに、反対に下がるときも数倍値下がりするハイリスク・ハイリターンの商品であること、Ⅲワラントには、新株引受権を行使できる期限が定められており、この権利行使期限が到来すると、権利は消滅しワラントは無価値になること、Ⅳ新株引受権を行使するには新たに株式の購入資金を払い込まなければならないこと、Ⅴ実際の株価が権利行使価格を上回れば、時価よりも安く株式を手に入れることができるが、株価が権利行使価格を上回らなければ、市場で株式を買う方が安く手に入るので、権利行使をする意味がないことを説明した旨(乙四六)、右電話による説明の直後、原告X2が被告広島支店に来店したため、Dは、原告X2に対し、前記ワラント取引説明書(乙二二の1)及び旧ワラント取引説明書(乙五の1)を使用しながら、従前電話により説明していたワラントの意義、ギアリング効果及び権利行使期間の存在を再度説明したほか、ワラント価格表を示しながら、具体的な銘柄についてパリティ、プレミアム等を説明し、また、多くの銘柄のワラントが発行当時の何分の一に下落していることを説明した旨(乙四七、D調書一八ないし五三項)各証言する。しかしながら、前記(1)②のとおり、原告X2は、被告広島支店において、平成四年四月九日に東京電力株五〇〇株の株式を買い付けた後、被告に預託した銘柄の一部について「つなぎ売り」をした外は証券取引を行っておらず、右「つなぎ売り」もDの勧誘により始めたものであって、当初は右取引が信用取引であることさえ十分に理解していなかったことからすると、証人Dが証言するように、原告X2から「もっと効率の良い方法はないか。」と述べたり、ワラントの説明を求めたとは考え難いこと、また、原告X2は、「つなぎ売り」により、取引の回数からすると、利益が出た取引の方が多く、損失は、マキタ株約一〇万円(原告X2が保有していた同株の売付により決済されたため、証拠上、明確な損失額は明らかではない。)、日立電線株二〇〇〇株の内一〇〇〇株について一一万九六五一円、残一〇〇〇株について約一〇なかし二〇万円(原告X2が保有していた同株の売付により決済されたため、証拠上、明確な損失額は明らかではない。)であるところ、右認定のとおり、数十万円程度の右損害についても、原告X2はDに対し苦情を述べており、右のとおり、原告X2は、ワラント取引を開始する以前において、必ずしも積極的に利益を求めた取引をしていたとはいえないことに照らすと、ワラント取引の危険性を十分に説明した旨の証人Dの右証言部分はにわかに採用することができない。

② Dは、ワラント取引確認書が被告広島支店に差し入れられた平成五年四月一五日、原告X2に対し、第四回大和ハウス工業ワラントの購入を勧誘し、原告X2は、右ワラント(数量七〇・単価七・七五ポイント・代金三一一万三九五〇円)を購入した。なお、右購入代金は、原告X2の退職金以外の資金から調達された(原告X2調書八七、八八項)。

原告X2は、同月二〇日頃、代金の清算と引き換えに被告から右ワラントの預り証の交付を受け、なお、右預り証には「新株引受権の権利行使期限は平成八年四月一七日です。この期限を過ぎますと、証券は無価値となり消却されます。」と記載されており(乙二八)、原告X2は預り証の右記載部分を読んでいた(原告X2調書三二九、三三二項)。また、原告X2は、同年五月初旬頃、被告から、作成日を同年四月三〇日とするワラント時価評価のお知らせの送付を受け、なお、右書面の表面には、銘柄コード、銘柄名、一ワラント当たりの社債額面、預かりワラント数、買付時の明細(単価・適用為替・金額)、時価評価(気配値・時価為替・時価評価額・時価評価損益)が記載され、裏面には、ワラント(新株引受権証券)のご案内として、Ⅰワラントは一定期間(行使期間)内に、一定価格で、一定株数の新株式を購入できる権利を有する証券のことである旨、Ⅱワラントの価格は、理論価格(パリティ)と行使期間終了までの成長・値上がり期待から生まれるプレミアムで構成されており、一般に行使期限までの残存期間が長い間は高いプレミアムがつき、行使期限が近づく程プレミアムは縮小し、理論価格に近づく旨、Ⅲワラントの価格変動は、理論上、株価に連動するが、その変動は株式に比べて大きくなる傾向があり、したがって、株式を売買するよりも少額の資金で、株式を売買した場合と同様の投資効果を上げることも可能であるが、反面、値下がりも急激で、場合によっては投資金額の全額を失うこともある旨、Ⅳワラントには権利行使の期間が設けられており、権利行使期間が終了した時にはその価値を失い、したがって、ワラントを買い付けた場合、定められた期間内にワラントのまま売却するか、新株引受権を行使して新株式を購入(引受け)するかの選択が必要であり、期間内に売却もしない、権利行使もしない場合、ワラント買付代金全額を失うことになる旨、権利行使する場合、新株購入代金として追加払込(現金)が必要である旨、Ⅴ外貨建ワラントへの投資は、為替の影響も考慮に入れる必要があり、ワラントの価格が一定だとしても、購入時よりも円高になれば為替差損を生じ、逆に円安になれば為替差益が生じることになる旨並びに売買代金の計算式及び理論価格(パリティ)の計算式が記載されていた(乙三六の1)。原告X2は、右ワラント時価評価のお知らせが送付された頃、その裏面を読んだことがあり、ワラント価格の変動の特徴やワラントには権利行使期間があり、権利行使期間が終了したときにはその価値を失うこと等を理解していた(原告X2調書二二二ないし二三一項)。なお、右ワラント時価評価のお知らせは、作成日を平成七年四月二八日とするものまで、三か月に一回の割合で被告から原告X2に送付された(乙三六の2ないし8)。

③ その後、第四回大和ハウス工業ワラントの価格は下落していたが、原告X2は、Dの勧誘により、平成五年七月一四日、第三回カシオ計算機ワラント(数量七〇・単価七・二五ポイント・代金二七六万五八七五円)を購入した。また、原告X2は、平成五年四月二三日、日清製油株一〇〇〇株及び京阪電気鉄道株五〇〇〇株を購入した。

第四回大和ハウス工業ワラントの価格は、更に下落したが、その後、値上がりし、原告X2は、Dの勧めにより、同年九月一三日、右ワラントを売却し(数量七〇・単価九・二五ポイント・代金三三五万五一八四円)、利益二四万一二三四円が発生した。そして、原告X2は、同月一四日、Dの勧誘により、前記日清製油株一〇〇〇株を売却し、右日清製油株の売却代金及び第四回大和ハウス工業ワラントの売却代金により、第二回昭和電線電纜ワラント(数量六五・単価一二・五〇ポイント・代金四三五万〇九三七円)を購入した。

Dは平成五年一二月一日付で被告広島支店から転勤した。右転勤の際、原告X2が購入した第三回カシオ計算機ワラント及び第二回昭和電線電纜ワラントの価格はいずれも下落していたが、原告X2はDに対し右ワラント取引に関して苦情を述べることはなかった。

(3) Cの勧誘によるワラント取引の経緯

証拠(甲四、二三、四七、乙二三、二七、証人C、原告X2〔後記採用しない部分を除く。〕)によると、以下の事実が認められる。

① 第二回昭和電線電纜ワラント及び第三回カシオ計算機ワラントのいわゆるナンピン買い

Dの転勤に伴い、被告における原告X2の担当はCが引き継いだ。

原告X2は、平成五年一二月一三日、被告広島支店を訪問しCと初めて会った。その際、原告X2は、Cに対し、第三回カシオ計算機ワラント及び第二回昭和電線電纜ワラントの価格が下落していることについて相談した。そこで、Cは、原告X2に対し、ワラントは権利行使期間が経過すると無価値になる旨説明した上、右各ワラントの時価評価額を伝え、右各ワラントの損失を少なくし又は利益を上げる方法として、ナンピン買いの方法(保有するワラントと同じ銘柄のワラントを買増しして購入コストを平均化して、ワラント価格が上昇した場合、損失を少なくし、あるいは、ワラント価格がコストの平均値を上回れば利益が出る方法)があり、平成六年には景気の回復とともに株価が回復する可能性がある旨述べてナンピン買いを勧めた。原告X2は、Cの右説明により、損失を取り戻すためにはナンピン買いをする以外にないと判断し、右同日、第二回昭和電線電纜ワラント(数量六五・単価三・〇〇・代金一〇七万二九八七円)及び第三回カシオ計算機ワラント(数量七〇・単価四・二五・代金一六三万六九九三円)を購入した(なお、原告X2は、ワラントは権利行使期間が経過すると無価値になることをCから聞いて初めて知ったかのような旨供述する〔原告X2調書一〇七、一〇八項〕が、前記認定のとおり、原告X2は、Dから十分な説明を受けてしなかったとしても、Dの言辞や前記(2)の認定のとおり、ワラント取引説明書、預り証及びワラント時価評価のお知らせの各記載を読むことにより、遅くともCの勧誘によりワラント取引をした当時においては、権利行使期間が経過するとワラントが権利消滅すること等を知っていたと認められ、右供述部分は採用することができない。)。

その後、Cは、昭和電線電纜の株価が上昇しているにもかかわらず、同銘柄のワラント価格は上昇せず、今後、右ワラント価格が上昇することが見込まれたため、原告X2に対し昭和電線電纜ワラントの買増しを勧誘し、原告X2は、右勧誘に従って、同月二四日、第二回昭和電線電纜ワラント(数量一〇〇・単価三・〇〇・代金一六七万四七五〇円)を購入した。

② その後のワラント取引

原告X2は、平成六年一月六日、前記京阪電気鉄道株五〇〇〇株を売却し、右売却代金等により東洋通信機株一〇〇〇株を購入した。Cは、原告X2に対し、景気回復のための財政投融資の効果が期待でき、また、低価格のワラントは値上がりした場合妙味があると説明して、大林組ワラントの購入を勧誘し、原告X2は、同月一一日、保有していた日本触媒株一〇〇〇株を売却し、右売却代金等により第四回大林組ワラント(数量一〇〇・単価二・〇〇ポイント・代金一一三万四五〇〇円)を購入した。

その後、第二回昭和電線電纜ワラントの価格が上昇したため、Cは、原告X2に対し、右ワラントの売却を勧め、原告X2は、平成六年一月三一日、第二回昭和電線電纜ワラントを売却し(数量二三〇・単価一〇・五〇ポイント・代金一三〇七万四〇七五円)、利益五九七万五四〇一円が発生した。その際、Cは、原告X2に対し、携帯電話の普及の拡大により利益が伸びると予想されると説明して、日本無線ワラントの購入を勧誘し、原告X2は、右同日、第二回昭和電線電纜ワラントの右売却代金により、第一回日本無線ワラント(数量二〇〇・単価一〇・二五・代金一一二四万四二五〇円)を購入した。

その後、原告X2は、同年二月三日、第三回カシオ計算機ワラントを売却し(数量一四〇・単価六・五〇ポイント・代金四八二万三一七三円)、利益四二万〇三〇五円が発生した。その際、Cは、原告X2に対し、第四回大林組ワラント勧誘時と同様の説明をして、熊谷組ワラントの購入を勧誘し、原告X2は、同月四日、第三回カシオ計算機ワラントの右売却代金等により、第三回熊谷組ワラント(数量三五〇・単価三・二五ポイント・代金六二二万四九六八円)を購入した。

原告X2は、同年三月三〇日、前記東洋通信機株一〇〇〇株を売却した。Dは、原告X2に対し、第一回セーレンワラントの購入を勧誘し、原告X2は、同年四月一日、東洋通信機株の右売却代金により、第一回セーレンワラント(数量一〇〇・単価五・〇〇・代金二六〇万一二五〇円)を購入し、その後、同月七日、右ワラントを売却し(数量一〇〇・単価六・七五・代金三四四万九三八一円)、利益八四万八一三一円が発生した。そして、その際、Dは、原告X2に対し、第一回小松精錬ワラントの購入を勧誘し、原告X2は、右同日、第一回セーレンワラントの右売却代金により、第一回小松精錬ワラント(数量一〇〇・単価六・二五・代金三二九万八四三七円)を購入し、翌八日、右ワラントを売却し(数量一〇〇・単価七・〇〇・代金三五九万七八六三円)、利益二九万九四二六円が発生した。さらに、Dは、原告X2に対し、第三回第一電工ワラントの購入を勧誘し、原告X2は、同月一一日、第一回小松精錬ワラントの売却代金等により、第三回第一電工ワラント(数量一〇〇・単価八・〇〇・代金四二三万四〇〇〇円)を購入し、その後、同年五月二四日、右ワラントを売却し(数量一〇〇・単価六・〇〇・代金三〇八万五三六二円)、損失一一四万八六三八円が発生した。その際、Cは、株式相場全体が回復基調にあったため、原告X2に対し、日本無線ワラントのナンピン買いを勧誘し、原告X2は、右同日、第三回第一電工ワラントの右売却代金により、第一回日本無線ワラント(数量一〇〇・単価四・七五ポイント・代金二四七万七一二五円)を購入した。なお、原告X2は、平成八年七月一七日、被告の取引口座から五〇万四二五九円を出金した以外出金したことがなかった。

③ 権利消滅

原告X2が保有していた第一回日本無線ワラント(合計数量三〇〇)は平成七年二月二一日、第四回大林組ワラント(数量一〇〇)は同年八月一日、第三回熊谷組ワラント(数量三五〇)は同月八日の各権利行使期間が経過して権利消滅し、第一回日本無線ワラントについては合計一三七二万一三七五円、右第四回大林組ワラントについては一一三万四五〇〇円、右第三回熊谷組ワラントについては六二二万四九六八円の損失が確定した。

(4) 原告X2が購入した各ワラントのパリティ及びプレミアム並びに権利行使の残存期間等

右(3)の認定事実に証拠(甲五七、乙三六の6、弁論の全趣旨)によると、原告X2が購入し権利消滅したワラントの権利行使価格、購入時の株価、権利行使の残存期間等は次のとおりであり(なお、前記二1(二)(3)②のとおり、算出の基礎となる株価はワラント購入日の終値とし、付与率はいずれも一である。)、また、右各ワラントを含め原告X2が購入したワラントの権利行使価格、購入時の株価、権利行使の残存期間等は別表記載のとおりである。

① 第四回大林組ワラント

権利行使価格 一〇〇七円

株価 六三九円

単価 二・〇〇ポイント

固定為替 一三八・九〇円

時価為替 一一三・四五円

パリティ マイナス四四・七四ポイント

プレミアム 四六・七四ポイント

権利行使残期間 一年六月余り

② 平成六年一月三一日購入の第一回日本無線ワラント

権利行使価格 二二七一・五円

株価 二一〇〇円

単価 一〇・二五ポイント

固定為替 一二九・四五円

時価為替 一〇九・七〇円

パリティ マイナス八・九一ポイント

プレミアム 一九・一六ポイント

権利行使残期間 一年余り

③ 第三回熊谷組ワラント

権利行使価格 七〇九円

株価 五一二円

単価 三・二五ポイント

固定為替 一三八・二五円

時価為替 一〇九・四五円

パリティ マイナス三五・一〇ポイント

プレミアム 三八・三五ポイント

権利行使残期間 一年六月余り

④ 平成六年五月二四日購入の第一回日本無線ワラント

権利行使価格 ②と同様二二七一・五円

株価 二〇二〇円

単価 四・七五ポイント

固定為替 ②と同様一二九・四五円

時価為替 一〇四・三〇円

パリティ マイナス一三・七四ポイント

プレミアム 一八・四九ポイント

権利行使残期間 八月余り

2  争点1(原告X2のワラント取引において被告の従業員による違法な勧誘行為があったか否か)

(一) 説明義務違反

右1(二)(1)ないし(3)の認定事実によると、原告X2は、Dの勧誘によりワラント取引を開始する際、Dから、ワラントの価格は株価に連動すること、何らかの期限が存在すること及び損失を受ける危険性があることしか説明を受けなかったこと、しかしながら、原告X2は、被告からワラント取引説明書、預り証及びワラントの時価評価のお知らせ等の書面の送付あるいは交付を受け、右書面を読むことにより、ワラントが権利行使期間内にその権利を行使して新株を引き受ける権利であり、権利行使期間を経過すると無価値となること、ワラント価格は、基本的には株価に連動して変動するものの、その変動率は株価の変動率より大きいことを認識し、その後、Cから、ワラントは権利行使期間が経過すると無価値になる旨の説明を受けたこと、原告X2は、取得したワラントの内平成五年一二月一三日及び同月二四日購入の第二回昭和電線電纜ワラント、平成五年一二月一三日購入の第三回カシオ計算機ワラント及び平成六年五月二四日購入の第一回日本無線ワラントはいわゆるナンピン買いであるが、右ナンピン買いの仕組み自体は認識していたことが認められる。

ところで、右1(二)(4)の認定のとおり、原告X2が購入し権利消滅したワラントは、購入時点において、いずれも権利行使の残存期間が八月余りないし一年六月余りと短く、且つ、株価が権利行使価格を下回っており、前記一の説示のとおり、右のようなワラントの購入を勧誘するに当たっては、被告の従業員であるCは、原告X2に対し、権利行使期間を経過する前であっても、事実上売却が困難となる可能性が高いことを説明すべき義務があるところ、証人Cの証言に照らしても、Cが原告X2に対し、株価が権利行使価格を下回っているワラントについて権利行使の残存期間との関係で損失を受ける危険性が大きい旨の説明をしたことは窺うことはできないし(C調書一二二ないし一二五項)、右1(二)(3)の認定のとおり、Cは、原告X2に対し、ワラント又は株式の購入と売却を繰り返し勧誘し、原告X2の取引状況は、従前、それほどの積極性を有するものではなかったにもかかわらず、担当者がCになった以降、株式又はワラントの売却代金により新たなワラントが購入されるなどそれ以前と相当変化していることに照らしても、右取引が的確な説明あるいは情報提供がなされた上でなされたかはなはだ疑問であること等の事情を総合勘案するならば、Cに説明義務違反があったと認めるのが相当である。確かに、右1(二)(4)の認定(別表)のとおり、原告が購入したワラントの内第四回大和ハウス工業ワラント及び平成五年七月一四日購入の第三回カシオ計算機ワラント以外のワラントはいずれも購入時点で権利行使の残存期間はいずれも二年未満であり、且つ、株価が権利行使価格を下回っており、しかるに、第二回昭和電線電纜ワラント、平成五年一二月一三日購入の第三回カシオ計算機ワラント、第一回セーレンワラント及び第一回小松精錬ワラントは利益が発生していることが認められるものの、右利益が発生したワラントでも、権利消滅したワラントの内権利行使の残存期間が最長の第四回大林組ワラントより残存期間が短いものは第一回セーレンワラント及び第一回小松精錬ワラントにすぎず、逆に権利行使の残存期間が二年以上の第四回大和ハウス工業ワラント及び平成五年七月一四日購入の第三回カシオ計算機ワラントはいずれも利益が発生していることに照らせば、権利行使の残存期間が短く、且つ、株価が権利行使価格を下回っているワラントの購入を勧誘するに当たっては、右説明義務を要すると解するのが相当である。

(二) 適合性の原則違反について

右2(一)、(二)の認定のとおり、原告X2は、ワラント取引開始時、六〇歳であり、既に中学校の校長の職を最後に退職し無職であって、ワラント取引の知識や右取引を行う積極的な意思を有していなかったことが認められるものの、原告X2は、被告以外に複数の証券会社と証券取引を行い、信用取引の経験もあったこと、原告X2は、被告から送付又は交付を受けたワラント取引説明書、預り証及びワラント時価評価のお知らせの記載も理解することができたこと、また、Cから勧誘を受けたナンピン買いの仕組みも理解することができたこと、原告X2の退職金の一部がワラント購入代金に充てられたものの、右退職金の半分以上は、定期預金や危険性の少ない中期国債ファンドに分散投資されていること(原告X2調書二四四ないし二五〇項)等の事情を総合勘案するならば、原告X2は、ワラント取引に関する的確な説明あるいは情報提供がなされたならば、右取引を理解することができる者と認められ、原告X1がワラント取引に適合性を有していないと解することはできない。

(三) 情報提供義務違反

前記二2(三)の説示のとおり、投資家のワラント取得後、証券会社又はその従業員に情報提供義務があるとは解することはできない。

3  争点2(説明義務違反と原告X2の損害の因果関係)

被告は、原告X2の損害はバブル現象崩壊後の株式相場低迷に基づく結果であり、右原告の自己責任に帰すべきものである旨主張するが、右2(二)の認定のとおり、以前における原告X2の証券取引経緯からすると、Cから、権利行使の残存期間が短く、且つ、株価が権利行使価格を下回っているワラントは、権利行使期間を経過する前であっても、事実上売却が困難となる可能性が高いことにつき説明を受けていたならば、そのようなワラントを購入しなかった蓋然性が極めて高いことが認められ、Cの説明義務違反と原告X2の損害の間には相当因果関係があると認められる。

4  過失相殺

しかしながら、前記二1(二)の認定のとおり、原告X2は、Dが勧誘した「つなぎ売り」により損失が発生し、右損失を受けたことにつきDに対し苦情を申し述べているにもかかわらず、Dが損失を受ける危険性がある場合には右危険を回避し指導する旨の言辞を安易に信じてワラント取引を開始したこと、また、原告X2は、権利消滅したワラントを購入した時点においては、被告からワラント取引説明書、預り証及びワラントの時価評価のお知らせ等の書面の送付あるいは交付を受け、右書面を読むことにより、ワラント取引の危険性をある程度認識していたこと、原告X2は、Cが勧誘したナンピン買いの仕組みを理解しており、右仕組みによるならば、当然、ナンピン買いにより取得したワラントの権利行使の残存期間は更に短くなることを容易に認識し得たこと、原告X2は、当初、Dから勧誘された第二回昭和電線電纜ワラント及び第三回カシオ計算機ワラントは価格が下落したものの、その後、価格が上昇し、売却により利益が発生した際、Cからこれほど儲かることはあまりない趣旨のことを言われたことがあり(原告X2調書一一四、一一五項)、ワラント取引を止める契機もあったこと等の事情を総合勘案するならば、原告X2の過失も相当程度あるといえ、原告X2の損害の七割を過失相殺するのが相当であると解する。

したがって、原告X2の損害は、前記二1(二)(3)③の原告X2が購入し権利消滅したワラントの購入代金合計二一〇八万〇八四三円から右過失相殺割合七割を控除した六三二万四二五二円であると認められる(円未満切捨て)。

5  弁護士費用

原告X2が本訴の提起・追行を代理人に委任したことは弁論の全趣旨により認められ、本訴の事案の内容、認容額等諸般の事情を総合勘案し、本件と相当因果関係のある弁護士費用は六〇万円と認めるのが相当である。

三  以上の次第で、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本眞一)

〈以下省略〉

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